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歌稿B〔明治42年4月より〕

a
中の字の徽章を買ひにつれだちてなまあたたかき風に出でたり
 
b
父よ父よなどて舎監の前にして大なる銀の時計を捲きし
 
c
藍いろに点などうちし鉛筆を銀茂よわれはなどほしからん
 
d
公園の円き岩べに蛭石をわれらひろへばぼんやりぬくし
 
e
のろぎ山のろぎをとればいたゞきに黒雲を追ふその風ぬるし
 
f
のろぎ山のろぎをとりに行かずやとまたもその子にさそはれにけり
 
g
キシキシと引上げを押しむらさきの石油をみたす五つのラムプ
 
h
タオルにてぬぐひ終れば台ラムプ石油ひかりてみななまめかし
 
i
うすあかき夕ぐれぞらに引きあげのラッパさびしく消えて行くなり
 
j
あざむかれ木村雄治は重曹をインクの瓶に入れられにけり
 
k
ホーゲーと焼かれたるまゝ岩山は青竹いろの夏となりけり
 
l
鬼越の山の麓の谷川に瑪瑙のかけらひろひ来りぬ